鈍い池谷を強引にデートへと誘った私は、そのデートの最中である。
日常で見ている学校の制服と違い、池谷は黒ジーンズに青いニットのセーターを併せ、ジャケットをその上に羽織るという、いつも通りと言わんばかりの格好。 私は初デートだからと、この時の為に買った薄いピンク色のワンピースを着て、その上にふわっとした印象を与えるようにと白いセーターを着ている。足もとも歩き疲れない様にと悩んでショートブーツ。自分なりに目一杯おしゃれしてきたつもり。
――ちっともこっちを見てくれない……。
私の方へと視線が向きそうになると、無理にフイっと顔を背けてしまう池谷。どこか変なのかなと不安になってしまう。「そろそろ休憩しないか?」
「うん……そうだね。そうしよっか!!」 池谷の好みもまだ良く分からない私は、初デート場所として近くにあるショッピングモールへと池谷を連れて来た。お店を見て回るうちに池谷の好みも聞きだせるし、一石二鳥かな? という考えから選んだのだけれど、私の目論見は直ぐに外れる。
「俺……目当てのモノを買う為に来る位で、買ったらすぐ帰るから、あんまり興味ないんだよな。服とかもそうかな」
「はぁ!?」 などという会話をお店の立ち並ぶ通路の真中で、池谷に「ぶっちゃけさ」と言われてしまったのだ。 とはいえ、せっかく来たのだからと、池谷を引きずる様にしながら二人で見て回る。私は気になってしまった物があると、そこで結構時間をかけてしまうので、池谷は飽きてしまったのかもしれない。「ちょっとトイレ行ってくるよ」
「え? あ、うん……」 モール内のカフェに入り、空いている席に私が荷物を置いた瞬間に、池谷はそう言って私から離れていった。地方の大学を卒業して、地元に帰る事をせずに就職して早二年が経とうとしている。もともと何をしようかとか、やりたいことなどを考える事をせずに、出来る事だけひたすらにこなす事だけを考えて生きて来た自分には、希望する職業などが有るわけではなく、かといって地元に戻る気にもなれなかったので、そのまま地方へと住み続けることにしたのだが、何とか拾っていただいた会社で、可もなく不可もなく暮らしていけている。「池谷ぃ~」「ん?」 同僚の吉田が缶コーヒーを片手に持ちながら近づいて来た。ちなみに今は仕事中である。休憩時間でもなんでもないが、会社の中は温度調節されているので、一年中同じ温度に保たれている。そして俺が働いている部署はそんな中でも特別区画になっていて、他の部署とは違い暑さが厳しい事で有名なところ。俺自身はデスクにかじりついて仕事をするため、そんなに暑さは感じないのだが、動き回る人達にとっては地獄というもっぱらの評価だ。「お前さ、今日暇だろ?」「何で決めつけてるんだよ……」 俺の隣の席に座るなり、俺に缶コーヒーを手渡しながらそんな事を切り出す吉田。俺はチラッと視線を壁に掛かっているカレンダーへと移すと日付を確認した。「だって去年もクリスマスイブだってのに一人ですごしてたじゃねぇ~か」「それは……そうだけど……」 吉田に言われたことは事実ではあるものの、それは理由があってそうしていただけで、好きで一人でいたわけではない。「今日はダメだ」「あん?」「用事があるんだよ」「用事? どうせ一人なんだろ?」 半笑いのまま俺の顔を覗き込んでくる吉田。――コイツ!! なぐったろか!? 「いや……本当に今日はダメなんだよなぁ……」「なんだよ? コレか?」 右手の小指を立てながらニヤッと笑う吉田。「あぁ。そうなんだよ」
「なぁ柏崎……」「なぁに?」 振り向いた私の姿に、池谷が少しだけ顔を赤らめスッと視線を外す。 鈍い池谷を強引にデートへと誘った私は、そのデートの最中である。 日常で見ている学校の制服と違い、池谷は黒ジーンズに青いニットのセーターを併せ、ジャケットをその上に羽織るという、いつも通りと言わんばかりの格好。 私は初デートだからと、この時の為に買った薄いピンク色のワンピースを着て、その上にふわっとした印象を与えるようにと白いセーターを着ている。足もとも歩き疲れない様にと悩んでショートブーツ。 自分なりに目一杯おしゃれしてきたつもり。――ちっともこっちを見てくれない……。 私の方へと視線が向きそうになると、無理にフイっと顔を背けてしまう池谷。どこか変なのかなと不安になってしまう。「そろそろ休憩しないか?」「うん……そうだね。そうしよっか!!」 池谷の好みもまだ良く分からない私は、初デート場所として近くにあるショッピングモールへと池谷を連れて来た。 お店を見て回るうちに池谷の好みも聞きだせるし、一石二鳥かな? という考えから選んだのだけれど、私の目論見は直ぐに外れる。「俺……目当てのモノを買う為に来る位で、買ったらすぐ帰るから、あんまり興味ないんだよな。服とかもそうかな」「はぁ!?」 などという会話をお店の立ち並ぶ通路の真中で、池谷に「ぶっちゃけさ」と言われてしまったのだ。 とはいえ、せっかく来たのだからと、池谷を引きずる様にしながら二人で見て回る。私は気になってしまった物があると、そこで結構時間をかけてしまうので、池谷は飽きてしまったのかもしれない。「ちょっとトイレ行ってくるよ」「え? あ、うん……」 モール内のカフェに入り、空いている席に私が荷物を置いた瞬間に、池谷はそう言って私から離れていった。
「ねぇ池谷……」「なんだよ?」 わたしの斜め後ろの席で、私の方へと顔を向けながらぶっきらぼうな返事をする池谷。「私、次の日曜に暇なんだけど?」「あん? 出掛ければいいだろう? 柏崎は友達多いんだから……」「はぁ……」 池谷からの返事に大きなため息を吐く。――いや、分かってたけど……ここまで鈍いとは……。 私は心の中でまた一つ大きなため息をついた。 池谷を他の女子達がどう思っているのか知らないけど、私は昔から良い奴だという事を知っている。とはいえ幼馴染という訳でもなく、住んでいる場所もちょっと離れているので、学校で顔を合わせるくらいの関係。一緒のクラスになった事もない。だから高校で池谷と同じクラスになれた事で、自分の部屋の中で大声で喜びの絶叫をしまったのは内緒だ。――しょうがないじゃない……。好きなんだもん……。 結局は、あの後も進展のないまま一日が終わってすでに放課後。独りでとぼとぼと帰り道を歩いていると、少し離れた前を池谷と、私の席の隣で唯一池谷と仲がいい友永《ともなが》が歩いていた。静かにその後を追う私。 家路の途中にあるコンビニに二人で入って行くので、そのまま後を追い、隙をついて友永に語り掛ける。「友永……」「うお!! なんだ柏崎かよ……」「何してるの?」「飲み物買いに寄ったんだけど……?」 友永がそう言いながら、何やらニヤッと笑う。「ははぁ~ん?」「なによ?」「たぶん漫画読んでるぞアイツ」「…………」 無言で友永を睨む。「じゃぁ後は宜しくな!! 池
目の前の席にて、俺の方へ椅子の背もたれに両腕を乗せながら、微笑む女の子にジッと見つめられている俺、|池谷晴弘《いけたにはるひろ》は現在戸惑っている。 外吹く風も枯葉を巻き込み吹きすさぶ季節の、午前中のとある休み時間。授業の繋ぎ時間だったはずなのだが、とある陽キャ達によりその状況は一変する。「おい、今日の獅子座生まれと魚座の人と進展ありって書いてあるぞ。お前魚座だったよな?」「いや、惜しいけど俺みずがめ座」 男なのに星占いを気にするなよなどと言葉で盛り上がりを見せる、陽キャクラスメイトを遠巻きに眺めていた俺。――そんなわけねぇだろ……。 心の中で悪態をついていた。心の傷はそう簡単にうめられるもんじゃないんだぞ!! などと思ってしまう俺。奴らは知らないとは思うが、実のところ俺は獅子座生まれなのだ。「おい!! 誰かクラスの中で獅子座生まれいないか?」 盛り上がっている生徒の中の一人が声を上げた。 「俺がそうだけど!!」「わたしも!!」 男女問わず声が上がるも、勿論俺が声を上げる事は無い。「池谷」「ん?」 俺の前に座っていた唯一の友達が、俺の方へ顔を向けつつ話しかけて来た。「お前、獅子座生まれだったよな……」「そうだけど……なんだよ?」「いや……」 チラッと俺から視線を外すと、ぼそっと言い捨てて前方へと向きを戻した。――なんだコイツ。 そんな事が有ったその日の昼休み。 件の友達が、その隣に座っている女子生徒に話しかけていた。チラッと確認する俺。時折その友達が俺の方をチラッと見るので気にはなったが聞く事はしない。 そして頷きあうと、俺の肩をポンと一叩きして教室から出て行った。――なんだ? 去って行く後ろ姿を見ていると、近くから声が掛けられる
俺、池谷晴弘《いけたにはるひろ》は現在とても集中している。 我が高校では、秋のイベント体育祭の真っ只中である。行事の中では修学旅行などと並び大行事なわけだが、ウチの高校ではこの体育祭が一番盛り上がるといっても過言ではない。 それはナゼか――。 種目の一つに借り物競走というモノがある。普通の借り物競走は、色々なものを会場内から借りてきて順位を争うわけだが、ウチの学校でも普通の借り物競走もある。しかし、そのレースの中で2つだけ特殊なものが入っている。 それが『告白レース』と名付けられているモノ。 簡単だ。男女1レースずつ。好きな人が居る人しか出場する事ができない。 そしてその出場者が好きな人を連れてゴール出来たら、告白成功で順位がきまる。中には撃沈する人もいるが、その場合は棄権扱い。もちろん順位はない。 そんなわけで、現在はその女子レースが行われる準備段階に入っているのだが、どうして俺がここまでレース前の段階で集中している理由。 もうお分かりの通り好きな子が出る予定だから。 それがクラスメイトで、周りからは地味子といわれている丸眼鏡が良く似合う、黒髪ロングをポニテにして存在なさげにしている|小向比奈《こむかいひな》さん。 いつもは髪をバサッと下ろしているので、あまり知られてないが、実は凄くかわいい子なのだ。――まさか彼女が出るなんて……。 高校生ともなれば好きな人が居ても普通の事。でも小向さんが男子と話をする事はあまりない。というよりも、地味子といわれるくらいだから、あまり話をしようと近寄る生徒も男女問わず少ないのだ。「俺ってことは……ないよなぁ……」 本音が零れる。 周りは雰囲気に熱気を帯びているので、誰も気づいてはいない。それはクラスのマドンナが出場しているという事もあるんだけど。 そうこう考えている内に、もう彼女の出る順番が回ってきた。
自慢するわけじゃないというか、恥ずかしい話だけど高校二年生になった今に至っても、彼女が出来るどころか、クラスの女子達との会話でさえままならないというのが、|常盤正英《ときわまさひで》という男子高校生である俺の客観的立場から見た評価だろう。 事実、朝登校してから女子と会話することなく一日が終わるというのは毎日恒例だし、何か用事があって話さなきゃいけないときも、余計な事など言える訳もなく、本当に用事をこなすだけの会話しかできない。 そんな俺だから、自分に『彼女が出来たらしい』という噂が上がっている事にかなり驚いたのは言うまでもない。事の起こりは、何も起きない一日を十分に謳歌していた平日の昼休み時間だった。「おい正英!!」「ん?」 声を掛けてきたのは一年の時からのクラスメイトで、俺は一方的に友達だと思っている|吉田疾風《よしだはやて》。クラスの女子達からも、甘いマスクにふわっとした血筋譲りの茶色い髪を無造作に切りそろえただけなはずなのに、モデルをしていてもおかしくないと評価されている、所謂《いわゆる》一軍に所属する男子だ。ただ本人はそんな外野の声を気にした様子はなく、陰でも陽でも分け隔てなく接して誰とでも仲が良い良い奴なのだ。 ただなんでも、自分の中で流れる欧州血筋の先祖返りの影響で、天パぎみの髪の毛が悩みの種だと、ちょっと影を落としながら話した時の顔は怖かったのを今でも忘れない。「おまえようやく彼女出来たんだって!?」「はぁ!? なに? 嫌味か?」 昼休みの休憩時間に、購買人気ナンバーワンの焼きソバパンと第二位のナポリタンパンをゲットしてほくほくした心でかぶりついていた俺の前に、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、前の席の椅子をガタガタと大きな音を立てながら引き、そこに勢いよく俺向きになりながら座る疾風。「か・の・じょ!! できたんだろ? 隠さなくてもいいだろ?」「いやいやいや!! 隠すも何も……出来てないし……」「はぁ